chural チカダミヤコ インタビュー
―まずは、チカダさんのもの作りのきっかけからお話いただけますか?
それが。。。
モノヅクリの出だしが、悲しい話から始まるんです。
20代前半から足の病気を5年くらい患ったんです。
膝の横にナイフで刺されたような鋭い痛みを感じて。
何軒病院に行っても、長らく原因が分からなくて痛みごまかすために、痛み止めだけ飲んでいる感じで…
それでなにかやらないと。
足が思うようにいかないならとにかく手を動かそうと。
―それは大変な思いをされたんですね。お仕事はしてなかったんですか?
仕事はホテルマンだったんですが、体力的にきつかったので続かなくて、そのあと会社の受付を。
契約期間終わるあたりから足を患らったので契約切れて働けなくなって。
自分の存在価値がなくなってしまったような気がしました。
で、足が動かないなら、手を動かそうと思った、それがきっかけなんですよ。
―意外です。昔から手を動かすのが好き、とかそういうことかと勝手に思っていました。
昔ちょっとだけおばあちゃんに編み物を習ったんですけど、ものにはならなくて。
学校の家庭科の授業も普通に楽しいな、くらいでした。むしろ下手でした。
―そうだったんですか、辛い思いをされましたね。
そうなんです。痛み止めを飲まないと普通の生活ができないレベル。
ちょうどそんな時、兄に子どもが生まれたんです。暗い人生の中に光が見えたような気がしましたね。
働くこともできなかったし、自分の存在価値が見えなかった中で、
自分の血を分けた赤ちゃんが生まれきてくれたことがうれしくて、。
兄の子どもに服とかいっぱい作ったんです。
家族にもありがとうって言ってもらえて。
よろこびを感じました。それでモノヅクリを…。
―じゃあ、最初からかぎ針を使ってものを作られていたわけでもないんですね。
そう、かぎ針じゃなかったんですよ。
最初はクロスステッチとか棒針編みとかなんでもやってみました。
ミシンは目の前にすると緊張してしまう。
棒針だと直せないんですけど、かぎ針は間違えても、ぱぱぱーって直せちゃう。
「これ自分の性格にあっているかもしれない!」って思って。
自分のペースで思い通りにいくハンドメイドがかぎ針だったんですね。
でもその時は、ハンドメイドを仕事にしようというのは全然なくて、
「これ楽しいかも!」っていう直観です。
―足の痛みはどうなりました?
6年目に原因が分かったんです。足の深いところに腫瘍があって。なかなか見つからない場所だったんです。うわあ、やっと見つかった、それまでは人には言えなかったんですよ。
で、手術することになったんですけど、ホッとしたと同時に、腹が立ってきて。。
20代前半の輝かしい5年間を返せと。その時1ヶ月位ひねくれたんですよ。
でも、これがなかったら、もの作りに出逢わなかったんだよなって。
それまで病気した事がなかったんですけど、病気ってこんなに心をすり減らしちゃうんだ、
心と体ってちゃんと繋がっているんだと気が付きました。
人に何かをプレゼントする時、もらった人は「ありがとう」って言ってくれるけど、
もらってくれるのも愛情なんだな…とも。こちらこそ「ありがとう」って。おかげで今こうやって作家活動していても、もらってくれた人の愛情に気付けるようになりました。
「ああ、無駄な時間じゃなかった」ってやさぐれた間に気付けたんですよね。
その後、手術してリハビリして…それから、すぐ作家活動を始めました。足が動かなくて…とにかく手を動かして「私ここにいていいんだよね」って。病気の時期は自分を否定していたから。
―それからLUPOPOさんに作品を置くことになるわけですね。
雑誌にLUPOPOが載っていたんですよ。
でも私すごい方向音痴なので、面白そうだから行ってみたいけど行けないなと思っていて。
たまたま三軒茶屋に来た時に、駅に行こうとして迷ったんです。
「あーまた迷っちゃったな」って思って。
だけどそのとき、駅に行くはずが、白熱灯の明かりが見えて。それがLUPOPOでした。
「あれ?ここって行こうと思っていた店だ!うわー!着いちゃった」って感じで。
で、
その時かぎ針編みのテイッシュケースを持っていたのでマスターに見せたら、「かわいいですね」って。。
それから手術があって、1年くらい後ですかね、メールしたんです。
「あの時来た女子なんですけど」って。そうしたら覚えていてくれて。
―偶然とはいえ、すごいご縁ですね。
私、道に迷って人生の転機に出合うこと、10年に1度くらいあるんですよ。
その10年に一回のひとつが、LUPOPO。ちょっと不思議な。
―では、作品についてお聞きしたいんですけど、当初からナチュラルテイストのアクセサリーだったんですか?
最初からナチュラルテイストは一貫しているんですけど、アクセサリーは作ってなかったんですよ。
シュシュとかカメラケースとか、小物でした。
でもあるときパーツ屋さんに出合って「ああアクセサリーって作れるんだ」って思って、
かぎ針編みで作ったら可愛いんじゃないかなって。
それでアクセサリーをいくつか作ってLUPOPOに置いたんですよ。
そうしたらLUPOPOで、出版社の方が目にとめてくれたんです。
「チカダさんのピアスが好きなんです、ハウツー本に載せませんか」って連絡が来て。
結局、本は企画段階で話が流れちゃったんですけど。
初めて人にハンドメイドでほめられた…嬉しくって。
で、私単純だから「人に褒められた!よし!じゃアクセサリーで行こう!」それが転機です。
だからその出版社の方には、すごく感謝していますね。
あのときピアスを「いい」っていてくれなかったら、
かぎ針のアクセサリー作家ってジャンルは自分で見つけられなかったので。
病気や人との出会いがあって、気づいたらこの場所にいたって感じです。
―ちなみに、はじめてご自分のアクセサリーを身につけた方を見たときのこと、覚えてます?
着けてくれた人を見たのだいぶ後なんですよね。
すごく嬉しかったです。でも、すごく反省。
客観的にみるとここダメだなあ、もっと頑張らないとなあって。
だから今はモニターの方に頼んでいろいろ聞いてます。
「ここがよかった?ここはダメ?」って。
使い勝手も良く、見え方も良く、しかもchural の世界観が出るように。
って客観視することを大事にしています。
―chural というのはチカダさんのアクセサリーのブランド名ですよね。どうしてブランド名を付けることにしたんですか?
作家名でやっていたんですが、これから作家活動を本気で頑張りたいと思っていたとき、
ブランド名で展開して行きたいと思って、アクセサリーに名前をつけてあげたいなと。
作品のテイストはナチュラルなのは一貫しているので「なちゅらる…」「な・ちゅらる…ちゅらる…chural ?!」できるだけ小さな「ゆ」とか入っていて、かわいい言葉がいいなぁと。意味はないんですけど。
女の子が言って楽しい響きの言葉にしたくて。それでchural 。
―チカダさんが考えるchural の世界観を教えてください。
私が考えるナチュラルは、ふんわりしている色味…白・生成・リネン・ベージュ…とか。
単純な自分の好みなんですけど。小物やインテリアも、そういうテイストが好きなんです。
でもナチュラルテイストって、ロマンチック・可愛らしすぎるに方に行っちゃいやすい。
普段使いにしようとすると実用性がなくなっちゃたりする。もちろん個々の好みですが。
アクセサリーは生活で使うものなので、甘すぎない、洋服から浮かない、
大人の女性でもかわいく普段使いで着けられる…
それはchural のポリシーです。
―それは作り続けているなかで生まれてきたんですか?
最初は自分の作りたいデザインを作っていました。使い勝手にまで気が回らなかった。
「でも違うな。いろんな人が使うんだよな」って思って。
いろんな年代や職業の人にとって使い勝手がいいものを作らないとな。
そうやって作りながら見つけていきました。
―石やスワロフスキー選びにもこだわりはありますか?
chural の世界観からはみ出ないように作ってはいますが、
その反面マンネリにもなりやすいので、調整しながら、バランスを取りながら色を選んでます。
配色ってそのブランドのカラーが出るので、色選びにはこだわっていますね。
でも、使う人の声も取り入れています。たとえば「オレンジ好きなんだけれど」とか。
そういう需要にもこたえていこうと。
―ご自分の世界観を持ちながらも、一方通行ではないんですね。
「こういうふうにしてもらいたい」っていう需要は、貴重な意見で一番分かりやすいです。
大事なのは喜んでもらうことですから。固執せず一度取り入れてから自分の中で噛み砕いて、提示してみます。
だから言ってもらえると嬉しいです。
―大事なのは喜んでもらうこと…ですか。
闘病中、可愛いものを見た時に生きる元気が湧いてきた…っていうのが、chural の原点。
大事にしていたい気持ち。
買ってくれた人がchuralのアクセサリーつけて鏡見たとき「可愛いなあ」「café行きたいなあ」なんて気分になって、
つらいことも忘れられたり、明日からもがんばろうと思ってもらいたいんです。
―常に相手のことを考えながらの、アクセサリー作りなんですね。
女の子に褒めてもらえるアクセサリーを作りたいんですよ。
周りの女の子に「それ可愛いねえ」って褒められているのをいつも想像して作っています。
結構一番うれしいのって周りの友達に褒められることなんですよね。
そこを満たせるアクセサリーを作っていきたい。
仕事帰りや寝る前に、「今日かわいいって言ってもらえたな」って幸せな気持ちになれたり。
―可愛いと言えば、作品だけでなく、あのふわふわしたタグも可愛いですよね。
あのタグをモフモフさわることで、ちょっと安心したり、癒されてもらえたら…
って綿を入れたふわふわしたタグ「モフタグ」を作ったんですよ。作るのにすごく時間かかるんですけどね。
猫を撫でたときに、癒されるなあって感覚で、こうやってタグを押してふわっと感じたときに
「うううん!!」って、その瞬間癒されたり元気が出たり、生きる活力を感じてほしい。
―生きる活力ですか。うーん、深いですね。タグひとつにこめられた想いが。
いつも思うんですけど…いまの女性の生き方は多彩で。
大人になればなるほど枝分かれしていくんですよね。
例えば、学校に行く・行かない、仕事する・しない、結婚する・しない、子育てする・しない、…
女性のカテゴリーが、わぁぁって広がっていて。
「自分が取り残されているのかな?」と感じているんじゃないかと思ったんですよ。
隣の芝生は青いと感じてしまう、みたいな。
人って本当は空気を吸って太陽を浴びて、それだけでいいのに。
でも社会が複雑化していく中で生きにくさや生きづらさを自分も感じて「女性って大変だな」って思ったんです。
孤独じゃないんだよ」「それでいいんだよ」「楽しく生きようよ」って伝えたい。
「可愛いもの」「きれいなもの」に触れたときに「わぁーっ」って
高まる気持ちが、どんな女性の中にもあると思ったんです。
落ち込んでいるときも、可愛いものを見て「ああいいな」「女の子に生まれてきてよかったな」って
思ってもらいたいし、自分もそう思いたい。
そういう気持ちを引き出すものを作りたい。
―そうなんですね。たしかに、私もアクセサリー大好きですが、可愛いアクセサリー着けると落ち込んでいるときも、鏡を見て「悪くないぞ、自分!」って思えたりしますね━
私の中でアクセサリーと下着ってジャンル一緒だな、と思うんですよ。
服は絶対ないといけないけど、下着も、まあ、そうですが…でも人には見えないですよね。
それでも、可愛いのもの身にを付けているとき「ちょっと可愛いな自分、ふふっ」って思う。
churalのアクセサリーを着けた人に、自分のことを好きになってもらいたいんです。
自分も悪くない、いいんだって。
―そうやってもの作りをしてきた中で、一番心に残っている作品ってどんなのですか?
それは今から作っていきたいですね。
今『fuwafuwaシリーズ』ってのを作っていて、定番化して行きたいです。
…心に残るもの…それはこれからから作れるように頑張ります。
―作り続けていくモチベーションやインスピレーションはどこから得ています?
caféや雑貨屋や、洋服、街を歩いている女の子を見ますね。
それで「いまああいうの流行っているんだ」「ああいうの可愛いな」って。
インスピレーションは外で湧くことが多いです。なるべくアンテナ張っています。
その時はドーパミン出ていて楽しいです。外でいろんなもの見ていてデザインが浮かんだりします。
―話はちょっと変わりますが、ツイッターやFBやブログで頻繁に発信していますよね。
ネットって使い方によってはすごく良いツールで自分の情報を瞬時に見てもらえる、これは使いたいなと。
それでなるべく毎日必ず写真1枚は載せています。
その日元気のない人がいるかもしれない、落ち込んでいる人がいるかもしれない
それがパッと写真を開くことで、「かわいいな」と元気になってもらいたい。
毎日続けることで、見てくれた人が「明日が来るのが怖くない」って思ってもらえたらいいなって。
―写真もすごく素敵ですよね。何かが伝わるような。あれは独学なんですか?
写真は独学です。とにかく説明書を読みました。
いつもは説明書読まないタイプだけど、開いてみたらいいことが書いてあったので。
ペン引いて使い方覚えましたね。あとは感覚。。。
高低差が出るようにとか、配置のバランスを良く撮ったりとか。
―チカダさんは常に他者と喜びを共有したいんですかね。そう感じます。
そうですね。自分もそこを活力にしたいし、自分も辛い思いをしたし。
辛いこと、寂しいこともあるけど、可愛いものや楽しいことで超えて行こうよ…って。
いつも向こう側には人がいる感じがします。
―人と言えば、作家さん同士のお付き合いはどうですか?
落ち込んだりするところ、繊細すぎるところ、そういうところが「自分はダメなんじゃないか」
と思っていたんですね。病気をしたことも大きかったですし。
でも、そういう自分もいいんじゃないかと思えたのは、作家さんと出会えてから。
作家さんと一緒にいると穏やかでいられるし、自分の居場所を見つけた感じですね。
―どんなお話をしますか?
作品の話もしますし、プライベートな話しもします。
刺激しあいながら励まし合いながら「がんばろうぜ」みたいな感じですね。
…ものづくりをしてるときは孤独ですよね。
「これ可愛いと思うの、私だけじゃないか」ってふっと疑心暗鬼になったりすることとか、かなりあるんですよ。
でも「いや、折れちゃいけない、きっと分かってくれる人がいる」って自分に言い聞かせる。
その繰り返しですね。
でも、そう感じてる時に何かしらのアクションが起こるんですよ。
作家仲間に褒めてもらえたり、ツイッターで「買いました」とか、FBで「いつも見ています」とか。
そういうときに励まされて、これは「折れたらいけない」ってことかな、って思います。
だから落ち込んだりもするんですけど、作り続けます。
―ああ、分かります。自分もブログとか書いていて「これ誰が読んでるんだろう?」って疑心暗鬼のループに陥りますよ。
クリエイティブな仕事って、人からやれって言われてやるものじゃなくて、
頼まれもせず自分で形にしていくので全部自己責任じゃないですか。
だから、これ誰も買わないかもしれない、ってこともあるかもしれない。
新しい作品を出すときは、いつも恐怖。いつもドキドキしてます。
―それでも作り続けるのはなぜでしょう。
見てくれている人、応援してくれる人がいる事。
「心折れそうになってもあきらめるな」って言ってくれた方がいて。
大阪でカメラ周りの小物を革で作っている『Acru』のオーナーのシノハラさんって方がいるんですけど。
あるイベントに出させてもらったときに、色んな話をしたんですよ。
その方も初めはレンタルBOXから始まっていて。
「自分が今ここまで来て一番悲しかった事は、
才能あるのにやめていった人がいるたくさんいること。
もの作りの世界は孤独だし、心折れることこれからもいっぱいあると思うけど、
チカダもあきらめるな」って。そうやって言ってくれる人がいると思うと、
折れてる場合じゃないんだなって。
―それは幸せなことですね。日々過ごしていて、どうですか?
写真撮ったり、デザイン考えたり、作品作ったり。
毎日やることいっぱいで、てんてこまいですね。
chural の仕事を「チュラ仕事」って勝手に呼んでいるんですけど。やらない日はないです。
―これからの目標ってあります?
オンラインでchural の作品を買ってもらえるようにしていきたいなと。
少ないんですけどFBとかで海外の方が見てくれるんですよ。
将来的には、日本に向けてと海外にも販売できたらなあと。
―じゃあ、夢ってあります?
夢…。叶っているのかな、と思う時もあるんですけど。
churalの作品を見て、人が幸せに元気になってくれたり、
生きにくさを感じている人がもっと生きやすくなってくれればいいなぁとか…
私はモノヅクリしかできないので。
―それは生涯作り続けていく限り続く夢ですね。
本当だ!大変だ!どうしよう。。。
自分も病気をしたとき、ものを作ることで気が紛れたり、楽しくなったりしたので。
この時代いろんな人がいると思うんですけど、
学校行けない人とか、働けない人とか、家にこもりがちな人とか、なかなか友達ができない人とか。
悩みとか辛い事とかいろいろあるけど、それはちょっと置いといて、一緒に手を動かしてものを作らない?って。
それをきっかけにその人達が社会と触れ合うきっかけになれば。
そんなこともしたいですね。それは真剣に思っています。
―やっぱり、チカダさんの心には常に他者がいますね。では、ご自分に…そうですね、病気していた辛かった時期の自分に、今会えたらなんて言います?
…「心折れそうになっても自分をあきらめるな」って。
生き続けていれば、ちゃんと認めてくれる人がいて、ちゃんと助けてくれる人がいて、
ちゃんと自分でいいんだと思える日が来るから。
だから、とりあえずちゃんとごはん食べて、眠りなさい、生きていなさいって、言うと思います。
―ありがとうございました。それでは、お客さんにメッセージをお願いします。
「ありがとうございます」感謝の気持ちしかないです。
たくさんの感謝の気持ち。日々精進していきます、これからもよろしくお願いします。
―では、最後に、同じもの作りをしている人に、メッセージを。
自分がどうしてもの作りを始めたのかって思い出してみるといいんじゃないかと思います。
きっかけと向き合ってみると、自分のことも見えてくる。
もの作りを通して自分は何を伝えたいかも。
そしたら世界に一個しかない素敵なモノたちで溢れて、
もっと素敵な世界になるんじゃないかと。
(2013.9.2 LUPOPO cafe&galleryにて・聞き手 ツルカワヨシコ)
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